鳥  批評と創造の試み

主として現代日本の文学と思想について呟きます。

「素人」ならざる作家の読書と日常を描く ――大江健三郎『新年の挨拶』

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「素人」ならざる作家の読書と日常を描く

――大江健三郎『新年の挨拶』

大江健三郎『新年の挨拶』1993年12月2日・岩波書店

■連作エッセイ集。

■201頁。

■1,400円(税込み)。

■2023年3月30日読了。

■採点 ★★★☆☆。

 

 

 長篇三部作『燃え上がる緑の木』の刊行(1993年~95年)に先立つ、ということは、丁度それらを執筆中、ということになろうが、岩波書店のPR誌『図書』の1992年1月号より93年8月号にかけて連載された、緩いつながりを持つエッセイの連作を集めたものである。まさにこの頃、わたし自身の大江健三郎に対する関心、今現代風に言えば「推し」というのか、が最高潮に達した頃で、本書も新刊を買って読んでいるはずだが、どういう訳か、全く記憶になかった。

 大江自身は、自身の読書、というか研究に近いと思うが、それを「素人の読み方」、と謙遜する。確かに、「専門の学者」或る特定の著作家なり、作品なり、対象を終生一貫して追究する訳ではないし、あるいはそれについての何某かの研究書を出す訳でもないから、「素人」と言うのも理解はできる。しかしながら、原書を横に置いて、複数の翻訳書、複数の辞書と首っ引きで読書をするなど、普通の意味での「素人」に、なかなかできることではない。無論、大江の場合はそれが、直截、あるいは間接的に、自身の作品に反映する訳だから、やはり、単純な意味で素人のはずがない。

 師匠・渡辺一夫の「三年間、ひとりの文学者、思想家に的をしぼって読む」(本書p.193)ことをせよ、との教えを忠実に実行していく様子が窺える。

 子息・大江光さんの音楽についても語られていて大変興味深いエッセイであった。

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