鳥  批評と創造の試み

主として現代日本の文学と思想について呟きます。

謎々『ユリシーズ』その17 海雀の巣穴の中へ ――「第17挿話 イタケー」を読む

ⅩⅦ

Ιθάκη

 



 

謎々『ユリシーズ』その17

 

海雀の巣穴の中へ

――「第17挿話 イタケー」を読む

 

【凡例】

・『ユリシーズ』からの引用は集英社版単行本による。鼎訳・巻数、ページ数で示す。柳瀬尚紀訳からの引用は、柳瀬訳・ページ数で示す。また、英語原文はwebサイト『Project Gutenberg(プロジェクト・グーテンベルク)』(Ulysses by James Joyce - Free Ebook (gutenberg.org))によった。

・『新英和中辞典』(研究社・電子版)はwebサイト「weblio」からの引用であり、以下「新英和」と略記し、最終更新日、閲覧日については省略する。一般的な訳語についての語註は「weblio」の見出しから取り、「weblio」と表記する。

・綿貫陽、宮川幸久、須貝猛敏、高松尚弘、マーク・ピーターセン『徹底例解ロイヤル英文法』改定新版・2000年・旺文社からの引用は「ロイヤル」と略記する。

・引用文の傍線(下線)、傍点の類いは何の断りもない場合は引用者によるものである。

 

  1. 訳者の解説には「彼が暴力によってではなく寛大さによってボイランに勝つ(?)」(単行本p.312)とありますが、「寛大」というテーマは重要だとは思いますが、単にブルームの生活の疲労などからくる「あきらめ」のようにも思えますが、いかがでしょうか? 単行本p.442,ℓ.2332には「羨望、嫉妬、諦念、平静」とありますが、結局は「諦念」による「平静」という面が強い気がします。それとも、どこかに「寛大さ」を示す伏線のようなものがありましたでしょうか?
  2. ブルーム家の台所(ブルームの居場所?)が半地下にあるのは、アイルランドでは一般的な家の造りであると以前「22Ulysses」の読書会で教えていただきましたが、どうも半地下というのが木のうろとか、動物の巣のように思えて、巣から出てきたブルームが、再び巣穴に戻って行くようなイメージが浮かびます。ブルームを何かの動物に見立てるようなイメージはジョイスには全くなかったのでしょうか? あるいは、スティーヴンが塔という直立するものに住んでいる/住んでいた、のに対しての、ブルームが半地下=穴=凹んでいるものに住んでいる、という対比なのでしょうか?
  3. 単行本p.319ℓ.112-114で「黄燐マッチを摩擦して点火し、ガス栓をひねって可燃性石炭ガスを放出し、高い炎を点火し、これを調節して静かな白光にしばり、最後に持ち運び可能な一本の蠟燭に火をともした。」とありますが、どうしてこんな面倒なことをしたのでしょうか? マッチを擦って、そのまま蠟燭に灯せばいいものなのに。それとも、これは何らかの宗教的儀式か何かを模しているのでしょうか?
  4. ブルームは靴を脱いで(単行本p.319,ℓ.119)、スリッパを履いていますが(単行本p.320,ℓ.130)、これは、アイルランドでは普通のことなんでしょうか?
  5. ブルームがスティーヴンを家に招き入れて、台所に連れて行くときに「明りの洩れる左手のドアの前を通過し」(単行本p.319,ℓ.131)とありますが、この左手の部屋はモリーの寝室なのでしょうか? そうすると、この段階ではモリーは起きていたということでしょうか?
  6. 単行本p.341,ℓ.516に「暖かい夏の夕方」とありますが、この表現はアイルランドでは普通なのですか? 夏でも夕方になると気温が下がるのでしょうか?
  7. 単行本p.347,ℓ.620 の「圧縮された三文字一観念の記号」とは何のことですか?
  8. 単行本p.366,ℓ954 の「祭礼的殺人」とは宗教的な様々なことが、人々を苦しめるという意味ですか? それにしては「殺人」というのは言い過ぎなような気もしもしますが。
  9. これは文庫では訂正されているかもしれませんが、単行本p.373,ℓ.ℓ.1085-1086の「イタリア語講習過程」と「声楽講習課程」は原文では両者とも「course」なのですが、前者の「過程」は誤植ですか?
  10. 寝ているモリーの描写の中に「あふれんばかりの精液をたたえた姿勢(fulfilled, recumbent, big with seed)」単行本p.451,ℓ.2485とありますが、この訳はあっていますか? 確かに「seed」=「精液」というのは分らぬでもないし、その含みがあるのも理解できますが、ここでは、モリーの寝ている様子が大地の女神になぞらえられているのと、「左手を枕に」とあるだけで右手がどうなっているか不明ですが、文字通り、種子を蒔いているような気もします。ここで、横向きに横たわっていて「精液をたたえた姿勢」というのがどうもピンときません。そもそも誰の精液なんでしょうか?
  11. ティーブンの「水嫌い」(単行本p.326,ℓ.246)、風呂に入らないというのは何か意味があるのでしょうか?
  12. 湯沸かしから出た水蒸気が「鎌状」(単行本p.328,ℓ.280)と表現されていますが、何故、鎌のように曲がるのでしょうか? 棒状なら理解できますが。
  13. ブルームは肉などの食品を棚に入れていますが(単行本p.p.330-331)、冷蔵庫の発明は1800年代らしいのですが、この時代、アイルランドではあまり普及していなかったのでしょうか?

 

〈中絶〉

 

2168字(6枚)

 

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